iPhone6はAppleの終わりの始まりか。Appleはデザインに対するこだわりが薄れ普通の企業になったのではという疑念

iPhone6、iPhone6 Plusが発表された。噂はされていたが、いざ出てみると、Appleも変わったなという印象になる。スティーブ・ジョブスが生きていた頃だったら許されなかっただろう、ユーザーインターフェイス/ユーザーエクスペリエンス(UI・UX)の断絶を起こすことになるデバイスだからだ。「iPhone6はAppleの終わりの始まり」という言葉さえ頭をよぎった。

これは、ユーザー視点からも開発者視点からも1つの理想的なユーザーエクスペリエンスを実現することが出来ない別の2つのデバイスを同じシリーズとして発売しているということで、Appleの再躍進を支えたスティーブ・ジョブズのこだわりを悪い意味で捨てているように感じたからだ。

この感想をサイズと画面比率・解像度という2つの観点から検討してみる。


■サイズの観点


iPhone6は4.7インチ、iPhone6 Plusは5.5インチの画面サイズとなった。iPhone6の幅は67mm、iPhone6 Plusの幅は77.8mmである。4インチのiPhone5,5Sの幅が58.6 mm、5インチのSony Xperia Z3が72mm、4.7インチのSony Xperia Z3 Compactが64.9mmである。

※ついでに持ちやすく手に馴染むと懐かしむ人も多いiPhone 3GS(日本における最初のiPhone)は62.1 mmである。いま考えると想像以上の幅が広い。丸みをつけることがいかに体感に良い影響を与えるかという事例だろう。

寸法を並べてみると、握りやすく入力しやすいと評判のXperia Compact系と同等の幅でサイドに丸みをつけたiPhone6は手の収まりが良く、画面サイズの大型化を感じさせないものになるはずだ。特に手の大きいアジア人以外の人種にとっては、これまでのiPhoneと変わらず、片手で持っても画面の全部にタッチ出来る端末だろう。

一方、5.5インチのiPhone6 Plusはどう考えても片手で握ることは出来ず、画面の上の方に持ちながら親指を伸ばすといったことも出来ず、片手入力が想定されているフリック入力には向かないサイズである。

となるとこのiPhone6 Plusは、まず片手操作が出来るか出来ないかという点で、iOSスマートフォン初の2系統への断絶を生む機種となる(もちろんこれまでも解像度の問題もあったが)。
これは劇的な変化で、より良いUI・画面設計を考えたときに、一つのデザインでiOS向けのユーザーを満足させることが出来なくなると言うことだ。

どういうことかというと、人は画面の上から下へと視線を移動させるので、上から下に向かって操作項目などを配置した方が良い。
しかしこれが安易に言えたのは画面全体を容易に押すことが出来るという前提があるからで、この前提が既に崩れているAndroid勢では下の方に操作項目を集中させたアプリもあれば、そうでないアプリとバラバラである。

例えばGoogle Chromeは上の方にボタンなど入力項目が集中しているが、Firefoxはそれよりは下の方に操作項目があるので、片手で操作したいときはFirefoxの方が良いアプリと言える。

このAndroidの事例のように、これからはiPhone6を使っているユーザーとiPhone6 Plusを使っているユーザーで同じソフトを使っても、使いやすいかそうでないか、だいぶ感想が違ってくるだろう。

AppleのスマートフォンはiPhone6で決定的に2系統に分かれてしまったのだ。


■解像度の観点


サイズの問題にも繋がるが、解像度・画面比率からもAppleのiPhoneへのこだわりが薄れているように感じた。

Appleは画面サイズの多様性によりiPhoneのユーザーエクスペリエンスが悪化するのを避けるために、初代iPhone (the original iPhone)からの一貫性を長らく重視してきた。初代iPhoneからiPhone 3G、iPhone 3GSまで画面サイズは4:3、解像度は480×320となっていた。そしてiPhone4でRetina化したときに解像度をiPhone3GSの480×320の同比率・2倍である960×640とし、ソフトウェアのデザインを2つに分断することを避け、Xcodeでの論理座標は480×320のまま(UIScreenのピクセル比率で調整)とした。

さらにiPhone5で縦長化し解像度1136 × 640となった際も、新解像度に未対応のアプリの表示を縦に引き延ばすのではなく、上下に黒帯をつくって既存の解像度のまま使わせるといった処置をとった。

これはAndroidの対応とだいぶ違う。Androidでは殆どのアプリが引き延ばしで画面全体に表示ということで対応されることになるはずだ。例えば6.44インチとタブレット並みのサイズでありながらスマートフォンであるXperia Z Ultraでは、JALのアプリは左上に画像が寄り、操作項目は下に並び、不自然な余白があるという状態になっていた。

このように、Appleは2007年発売の初代iPhone以来、実質的にサイズ・解像度を一貫して変えてこなかったと言えるのだ。

※日本では2009年のiPhone 3GSからiPhone発売で、2010年でiPhone4になったのでRetina化してすぐ解像度が上がった感があるが、初代iPhone (the original iPhone)は2007年であり、Appleとしては3年間同じサイズ・解像度を厳密に守り続けた事になる。

さらにiPhone5が解像度1136×640、比率が1.775:1で、映画・テレビで通常使われて普及している16:9ではない?なぜか、その理由がAppleらしい。
1136-960=176。Retinaディスプレイで倍密度なので、論理解像度にするため2で割ると88。これは44×2である。44とは何か?これはAppleが考える、ユーザーの指で押しやすい/誤ったボタンを押しにくい最小サイズであるとiOSヒューマンインターフェイスガイドラインに記載されている。

iOSヒューマンインターフェイスガイドラインPDFリンク

つまりAppleにとってiPhone5は最小ボタン2つ分縦に伸ばしたのがiPhone6であり、この一貫性を保つことは、16:9という調達しやすくて普及しているデバイスを使えない(=価格競争力が無くなる/利益が減る)ことよりも大きい価値があったのだ。

繰り返しになるが、このぐらいAppleというのは画面比率の一貫性に気を使う企業である。いや、あったのか。iPhone6/iPhone6 Plusの出現がAppleの姿勢を分からなくした。

iPhone6は1334×750という解像度で、画面比率は1.77866666667:1である。iPhone6 Plusは1920×1080で世間で一般的な16:9。ここでまずiOSスマートフォン初の、明確な2系統への画面の分断が起こった。

さらに不明瞭なのが、iPhone5の解像度とiPhone6の解像度の一貫性のなさだ。iPhone5が解像度1136×640、比率が1.775:1、iPhone6は1334×750という解像度で、画面比率は1.77866666667:1、iPhone5の画面比率のまま時代にあわせて解像度を向上させるなら、750×1.775で1331.25ピクセルとなる。1334-1331=3ピクセルが謎なのだ。iOS7以降フラットデザイン化に伴いアイコンサイズが114×114から120×120になるなどデザインの方針に変化があったのでその影響かとも思ったが、3ピクセルというい奇数となるのも不思議である。

とにかく結果としてiPhone5(1136:640/画面比率1.775:1)、iPhone6(1334×750/画面比率1.77866666667:1)、iPhone6 Plus(1920×1080/画面比率16:9)という3つのスマートフォンを世間に併存させることになった。
これはユーザーにとっては、iPhone5からiPhone6に機種変更したとき(微妙にではあるが)普段のアプリの使い勝手が変わってしまう可能性があるということだし、開発者にとって3つの系統を開発しないと表現したいUI/UXを確実に実現することが出来ないという問題となる。


■まとめ


2007年から2014年まで、初代iPhone (the original iPhone)からiPhone5Sまで、2Gネットワーク(GSM with GPRS/EDGE)から4G LTEネットワークまで、一貫性を非常に重視した姿勢を見せてきたAppleが、2011年スティーブ・ジョブズを失った影響か、iPhone6で急に一貫性を失ったように見える。サイズは2つに、仮面比率は3つに、急に分かれてしまったのだ。

これはAppleのiOSヒューマンインターフェイスガイドラインにさえ従ってアプリを開発すれば全てのiPhoneユーザーに使いやすいアプリが提供できる、iPhoneを買って慣れればどのアプリも大体同じように使えるという、よい循環・エコシステムを失わせる可能性がある。

このエコシステムの破壊が意図したもので無いとしたら、Appleがスティーブ・ジョブズの神通力を失って普通の企業になったという事だろう。つまり開発部門と調達部門etc…など複数部門のユーザー視点抜きの局所最適化が生まれてしまっているということだ。

iPhone6はAppleの終わりの始まりか…
この予想が外れていて欲しいと切に思いながら、iPhone6 Plusの到着を待つことにする。